39章 信じて待つ

 病気になった時、それが自然に治るメカニズムを傷を例に考えてみましょう。ヒフに大きな傷を負うと、バイ菌や泥などが体内に入らないように、出血してその部位をまず初めに洗い流します。次にかさぶたをつくって出血を止めます。さらにかさぶたの下にある傷ついて使えなくなった細胞を分解吸収します。その後新陳代謝によって肉芽組織(にくがそしき)という新しい細胞ができてきます。組織の修復が完了すると、かさぶたが自然にはがれ落ちて元の正常なヒフに戻ります。

 これら一連の治癒のメカニズムは,書けば簡単ですが実際には何日も何週間もかかることがあります。特に大手術や深い傷では、治るのに長い時間が必要になります。このような時は誰でにもあせりが出てきます。なかなか病気が良くならないと、「もしかして一生このまま治らないかも知れない。もしそうなったらどうしよう。」と不安になるのは当然です。

 自然治癒力を発揮するにはこの不安感焦燥感恐怖感が一番の障害になります。治りを遅らせる大きな原因の一つは、あせりと不安と病気をおそれる心です。なぜかというとこのような感情があまり強いと、交感神経が緊張してノルアドレナリンというホルモンが過剰に分泌されます。すると全身の血管が収縮するために血行が悪くなり、細胞の新陳代謝が低下します。その結果病気の回復が遅くなります。

 これは病気の治療だけではありません。社員や子供の教育、試験、試合など人生の重要な場面についてもいえます。たとえば子供のやることが遅いとついイライラして、「早くしなさい!何やってるの!」と叱ることが度々あります。それはノロノロやっていては、他の子供に遅れてしまうという不安からくるのです。会社でもこんなに仕事が遅くてはライバルに出し抜かれてきびしい競争に負けてしまうという不安感の中で仕事をしています。上司も部下も会社中がピリピリ緊張していては本当にいい仕事などできるわけはありません。

 毎日恐怖と不安とあせりの中にいては、実力など100%発揮できるものではありません。まして良いアイディアなど浮かぶものではありません。たとえ一時はうまくいったとしても無理は長続きしないし、一番重要な場面でミスがでて結局失敗してしまうのです。練習ではいい記録が出せるのに、本番になるとたりミスが出てしまうのはこのためです。モチベーションを高めて集中力とやる気を十分に発揮するのと、あせりや不安で神経が緊張するのとは全く違います。似ていますが前者は成功につながり、後者は失敗を招くことになります。

 ではどのようにすればよいのでしょうか。その秘訣を次の3か条にまとめました。
1 「あせらない、あせらない!あわてない、あわてない!大丈夫、大丈夫!」と小声で自分に何回も言い聞かせる。
2 自分が納得できるようベストを尽くせばそれで良いとする。
3 自分あるいは相手の生命力を信じてじっと時を待つ。勝負は時の運、結果を考えると誰でも怖くなり力が発揮できない。結果のことは終わってから考えれば良い。あまり先のことばかり考え続けるとエネルギーが無駄に消費されて、必要な力がエネルギー不足になってしまう。現代人はせっかちでいつも追いかけられているので、待つことの大切さを見失っている。播いた種は時間さえたてば必ず芽が出てくるから安心して待つこと。


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