11章 陰陽論:人間はなぜ2本足になったか

 何とつまらないテーマだと思った方がたくさんいらっしゃると思います。こんな当たり前のことを何で今更言うかといえば、実はここに東洋医学の根本的な理論の一つである「陰陽論(いんようろん)」があるからです。

 私たちは進化の過程で、今から約500万年前にサルから分かれて人間の道を進み始めたと考えられています。もともとは4本足の動物が何かのきっかけでスッと立ち上がり2本足で歩くようになりました。すると2本の手を自由に使うことが可能になり、様々な道具を発明して生活を豊かにすることが出来るようになりました。

 それだけではありません。最も重要なことは、このお陰でサルとはわずか数パーセントほどしかDNAは違わないのに、実に200億個の大脳細胞を、全脳では実に1000億個の脳細胞を有するようになったのです。これはスーパーコンピューター6台分に匹敵すると言われています。あなたの頭の中の小さなスペースにそのような優秀な機械がコンパクトに収められているというはすごい奇跡だと思いませんか。

 話を元に戻しましよう。今あなたの2本の足を見て下さい。左右同じ形ですか、違いますよね。右足は中心側が親指で、外側に小指があります。左足では中心側は親指ですが、外側は小指になっています。要するに並び方が左右反対になっています。似てはいるけれども反対のものが、二つ合わせて一つの働きをするということが大事なのです。

 では次にその足を使って歩くことを考えてみましょう。まずは右利きの人でしたら右足を一歩前に出します。重心を右足に移動させてから、今度は左足を右足より前に出します。このようにして交互に反対側の足を更に前に出すことを繰り返しながら、前進するシステムになっています。もしこれが右足二本だったら歩くのに不自由で仕方ありません。歩くことも走ることもままならないでしょうね。

 手についても全く同じことがいえます。もし同じ右手2本だったら道具を使いこなすのにとても不便です。全く反対のものが組み合わせてあるからいいのです。陰陽論とはまさにこのことであり、「二つの正反対のものが協力して、一つの働きをする。」という根本原理を表しています。
 
 昼間ばかりでは休養をとる時間がないし、夜ばかりでは暗くてろくな働きが出来ません。昼夜が交互にくるからよいのです。夫婦でもどちらかが陽気でもう一人が陰気だから、ちょうどバランスがとれて二人合わせてよい夫婦といわれます。大きく伸びた会社は社長とそれを支える専務が正反対であり、その二人のバランスがうまくとれて1つの大きな働きを為すという形になっています。それを互いに反対派が邪魔だとばかり、追い出して一方のみでやっていこうとすると、一時うまくやったように見えてもやがては会社としての成長力を失って衰退してしまうケースがよくあります。

 体でいえば交感神経系と副交感神経系がちょうどよく働いて、自律神経系全体のバランスをとり生命力が十分に発揮され免疫力も高まり健康を回復することにつながります。またそれは心と体の関係にも似ています。健康な心が健康体を作る原動力になり、健康な体は健康な心を生み出す原動力となります。どちらがかけても本当の意味で健康とはいえません。

 陰陽説は、むやみに反対のものを排斥して追い出してしまうという短絡的な考え方をやめ、互いに相反するものの価値を認めそれぞれの特徴を生かしてゆくという「生かしあい」の心です。もし今の環境であなたに敵対する誰かがいたとしたら、それはあなたを害するためにいるのではなくて、むしろあなたをより大きく生かそうとする自然の働きであると考えるようにすれば、すみやかにあなたの生命力は回復し病気は癒されるに違いありません。

 現在の医療はあくまで西洋医学が中心であり、鍼灸東洋医学は代替医療として副次的にしか考えられていません。しかしこのような副作用の少ない世界にも誇れる優れた医療は、治療の選択肢を広げる意味でもっと多くの方々に広まるべきだと思います。西洋医学と東洋医学はバランスよく、2本の足、車の両輪になって両者一体で国民の医療と健康増進に寄与することが大切だと思います。


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